「農業経営基盤強化促進法の一部を改正する法律(令和4年法律第56号)」により、農地法の一部が改正され、農地取得時における「下限面積要件」は、令和5年4月1日から撤廃されました。
今まで、農地は農家でなければ取得できないといわれてきました。なぜなら、農地取得には下限面積(最低限この面積の農地を持っている人でなければ農地の取得は出来ません)という規制があり、その面積が最低20a=2000㎡=約605坪という広さだったからです(※R3年度の由利本荘市下限面積)
605坪は、本気でやるなら足りない面積ですが、これから農業を始めてみようって人が取得するにはちょっと怖い面積です。
高齢化が進み、農業に従事する人の数は減少しています。
田舎の農地も継ぐ人がないまま、荒れ地になっているのが現状です。
そのため、経営規模の大小にかかわらず意欲を持って農業に新規に参入してほしい!という観点から、農地の面積要件が廃止されました。
そのため3月頃から、「下限面積撤廃」についてアナウンスを受けた農地の持ち主さんが「一般の人にも農地を売れるようになったって聞いた!」と弊社に問い合わせを下さるケースが増えまして、一度説明記事を作っておこうと思った次第です、はい。
昨年までは空き家バンクに登録された空き家に隣接する農地に関しては、「空き家に付随した農地」として農地法3条の下限面積が0.01a=1㎡まで緩和される条文がありました。事前に農業委員会と調整するなどの手順が必要でしたが、今年度、おおもとの農地法3条の改正がありましたので、空き家に付随した農地を売却する際に空き家バンクに登録することは必須要件ではなくなりました。
農地は一般の人でも買える?
以下の内容は「農地を農地のまま、農業従事者ではない一般の人に売る/一般の人が買う」という想定に基づいて記載しています。
結論から言うと、農業従事者でない一般の人も、農地法3条の規定に従って許可申請を農業委員会に提出して許可を受ければ、農地を買うことはできます。
由利本荘市の農地に関しては、農業委員会に相談します。
本荘の市役所の隣、広域行政センター3階に事務局があります。
農家ではない一般の人が農地を買うためには「農地法3条の規定による許可申請書」と「営農計画書」を農業委員会に提出し、毎月1回開催される農業委員会総会で許可をもらいます。
申請書は月末締め、総会は翌月の15日ころ開催され、許可が下りれば1週間ほどで許可証が発行されます。
所有権登記移転手続きの際に、農業委員会の許可証を添付すると所有権移転が出来ます。
農地法3条の許可申請書には何を書くの?
由利本荘市の農業委員会には独自フォーマットがあるので、それに基づいて記入していきます。
主な内容は以下の通りです。
- 売る(貸す)人、買う(借りる)人
- 許可を受ける農地の所在・地番・地目・面積
- 売買(賃貸借)価格、賃貸の場合期間
- 申請事由
- 許可を受ける土地以外に管理している農地はあるか
- 作付け予定作物・作付け面積
- 所有する農機具
- 農作業に従事する人についての情報
書式を見るとあまり難しい書類ではありません。
これからどのように運用していく予定かを書いて申請します
なお、農地を賃貸する場合も3条許可が必要になります。
営農計画書には何を書くの?
由利本荘市の農業委員会には独自フォーマットがあるので、それに基づいて記入していきます。
主な内容は以下の通りです。
- 農地の取得目的および経営方針
- 農地をどのように使うか、農産物はどのように販売するか
- 農地を管理する人について
- 周辺地域における農地の利用に対する影響について
③の農地を管理する人=農業労働力については、年間農業従事日数が150日以下だと許可が下りにくいそうです。
家庭菜園規模でしかやらないし販売予定はないけど、それでは許可が出ないでしょうか?
家庭菜園として季節の野菜を作って、周りの農地に影響が出ないように管理していく、という現状に即したことを書いていただければ大丈夫なようです。判断に迷うときは、農業委員会事務局の窓口で確認してください。
申請は代行してもらえる?
農地法に基づく申請については、行政書士の領分になるため、不動産屋では代行しません。
どうしても直接赴けない場合は、行政書士さんに相談してみてください。
売りたい人と買いたい人が直接農業委員会事務局に行って、現状を丁寧に相談した方が申告が通りやすいのでは、と思います。
ところで、農地を農地のまま売るときの値段って?
上下水道・電気等のインフラが引き込めて、農業委員会の許可を得る必要がない土地が宅地、インフラが引き込めるけど許可が必要な農地は宅地見込み地です。
インフラは引き込めるけど地目が農地、という場合は宅地見込み地として、5条申請を行って宅地並みの価格で売買します。
宅地見込み地であれば不動産屋でも「5条許可が必要」と但し書きをして、宅地並みの値段をつけて、通常の取引の対象にしています。
逆に、元々農地でこれからも農地としてしか運用するつもりがない土地は農地並みの価格で売買します。
結局のところ、売りたい人と買いたい人の値段が折り合えばよいので、「宅地予定で5条申請するけど農地の値段で買う」場合も、「農地として運用する予定だけど宅地並みの値段で買う」場合も、売主と買主の合意があればいいとは思います。(贈与にならない程度の調整は必要です)
地域によって適切な価格は違うとは思いますので、農業委員会に「農地としての売買の場合はどのくらいの価格であれば適切か」聞いてみてください。(3条申請のフォーマットに値段の例の記載もありましたので参考になるかとは思います。)
特に値段のガイダンスがない場合、「固定資産税課税通知書」の評価額の1.2倍~2倍くらいの価格が適正なのでは、と以前行政書士の先生にお聞きしたことがあるので、そのくらいの価格がよいのではないでしょうか。
基本的には売主さんと買主さんが合意していて、安すぎて贈与になったり、高すぎて逆贈与になったりしなければいくらでもいいのでは、と思います。※税務調査が入ったときに価格の根拠を説明できれば大丈夫です。
不動産屋は農地の買取をする?
不動産屋で農地を農地として買ってくれますか?
転用して宅地にできそうな農地であれば購入することもありますが、農事部などがない不動産屋だと「地目農地での買取」は行っていません。
年間150日以上の耕作等が無理なので、不動産屋が「農地を農地のまま転売する目的」で取得することはできないです。
宅地開発目的であれば5条申請をかけて購入することはあります。
不動産屋は農地の仲介をする?
転用が厳しい農地なのですが普通の宅地のように、広く買い手を募る「仲介」は不動産屋でしてくれますか?
農地を農地として売る場合の仲介についてはあまり事例を聞かないのですが、出来ないことはないとは思います。
最初に条件等をよく相談させてください。
ただ、現実的には農地中間管理機構でやっている「農地バンク」を通す方が良いと思います。農業委員会に相談してみてください。
※農地バンクを通じて農地を売った方は800万円の譲渡所得の特別控除などの適用を受けることができます
農業経営基盤強化促進法の改正も今年の春に行われました(令和5年4月施行)。今までよりも利用しやすいように農地バンクの制度を整備し、「いらない人から欲しい人へ」繋ぐ仕組みづくりが行われています。
まだ制度が動き出したばかりなので、今年はダメでも、2年後、5年後になるともっと使いやすい制度になるのではと思います。
農地だけど農地じゃなくなってる場合は?
地目は畑だけど、端から端まで竹藪になってて耕作するのが無理なので3条では厳しい状況になってる
地目は田だけど、松林になってて3条で権利移転が出来たらかえって買主さんに悪いなって状況になってる
よくあることです
登記地目は田・畑だが、現在、どう見てもそのような状況でなくなっている、という場合は、農業委員会さんに相談してみてください。
その際、地図や公図など位置関係のわかるものと、該当地の地番を持っていくと話がスムーズにいきます。
本当に手の打ちようがないものに関しては、農業委員会さんが確認してくださいます。「これはもう農地として運用するのは無理だ」という判定が出ると「非農地申請」を出すことができます。月末締め翌15日ころ開催の農業委員会で審議して、異論がなければ申請が通ります。
非農地として認定された土地は、雑種地や原野の地目になり、農業委員会の許可証がなくとも権利移転することが可能になります。また、耕作する必要もなくなります(周りに迷惑が及ばないよう、管理はしてほしいのですが)。
非農地の判定については、見てもらわないとどういう結果になるかわからないです。
「空き家に付随した農地で空き家と宅地と一緒に売却したいけれど、現在どうやったって農地ではない(竹林になっている)」などの場合は非農地として認められることもあります。
逆に「手をかければ農地として運用可能なのでは?」「この広さであれば資本投下して整えれば農地として運用できるはず」などの場合は、非農地として認められないこともあります。
農業委員会さんで「原野」と判定してもらったケースもあるため、まずは聞いてみてください。
終わりに
現在弊社でお預かりしている農地は、去年までは「農地付き空き家」と分類されていたものです。
建物とその底地に付随した比較的小さな農地であり、売買代金もメインの宅地建物の取引内に含まれるような農地のため、「農地のみの取引」ではないのですが、少しずつ事例も積み重なっていくと考えています。
「いらない人から欲しい人へ」物件をつないでいけるよう、新しい制度があればまたご紹介いたしますね。
お読みいただきありがとうございました。